三重県津市にある「みえぎょれん」のサイトです。「みえぎょれん」や三重の海の紹介、お魚を使った料理レシピも掲載してます。

遊木浦漁協 大川長さん、大川茂幸さん

聞き手/編者:元三重大学水産学部教授 内藤一郎氏

三重県 浜の声:さんま棒受網漁業

ここの漁業は大体、シビ縄とか、メジカ棒受網、サンマ棒受、一本釣…かな。サンマ刺網は昔はあったが、今はやっていない。

うちは何代か続いている網元やもんで、漁業は何時からか判らないが今はサンマです。私は宝生丸より3歳若い。

私は若い頃、カツオ船やシビ網船に乗りよったが、開吉丸はサンマ一本で来よった。北海道まで行っとんのよ。

私が北海道へ行くようになって、今年で丸5年になる、私は昭和25年に中学を出た、その時はもうやっとった。棒受網は、多分北海道の方から来た漁法だと思う。

編者:その頃はもう電気式だったのですか?

そう、発電機も24Vで、100V用の切替用のもので…

刺網の時分は、ガス灯を使いよったわ、煮炊きもな…

魚用に使う、カンテラ(カーバイト灯)や。

刺網は、向きによって掛け廻すのや。

網は真直ぐに流すのではなく、半円の形にするのや。

その当時は棒受けがなかったから、刺網専門だった。

編者:そうしますと、開吉丸は昔は、刺網でやっていたのですね。

そうです。

私の時は刺網やっとって、棒受網が入ってきて、それに代わった。兼業やよ。

刺網でも、値でも張ればやりよったが、どうしても鮮度が落ちとるんで加工もできんし、値段的に合わんようになって抜き(外し)費用もかかるし、女衆の手を借りるにもほかへ働きに出てしまって、人手に困るようになった。鮮度が落ちるのは、棒受と違って氷を持って行かないからで、そんなことで、棒受網に代わった。

棒受網よりも、刺網の方が費用がかかったな。抜取り費用の分だけ余計に。その上、網代も本船に切られると痛いよ。それに棒受では漁場を転々と変えられるが、刺網の場合は、1度、降ろしてしまうと、その日はもう変えられんでしょう。

編者:今使っている船の大きさは?

14~15t、大きいのは19tか。

北海道へ行くのは小さい方で行く。大きい方が良いのだが、10t未満でないと許可が受けられないのだ。船の大きさに応じて解禁日が違うから。

現地では5、10、15、20t各未満と、クラス分けをしている。うちは始めは20t未満で行った。それだと解禁日が20日間程遅れるので、それからは10t未満で行きよる。そして県内でも10t未満でやっている。

北海道を終えて、サンマと共に南下しながら、こちらへ帰って来る。この辺りは11月に獲れるので、それに合わせて計画する。今年は、特に回遊状態が悪いように思う。南下しても、南下すると発生群が違うので、脂の乗り具合が違うだけで、大きさに違いは無い。

こちらは水温が温うなるので、消耗してか、抜けてくるのかねぇ。

北海道へは7月中旬に出かける。解禁日が7月22日ときまっているから…。

この辺では、漁期は普通なら11月、早くて10月下旬からになる。

編者:サンマの前は何をやっているのですか?

夏ボケ(アジ、サバ棒受)したり、量が少ないもんだから、ガシ(カサゴ)網を周年(ただし1~2月は休む、ここだけの決め)やってみたり、イセエビ刺網をやったりしている。今年は漁が少ないものやから、8月16日から出かけた。正味1ヶ月半しか出ていない。 ガシは大きいものは30㎝にもなる。今年は漁が無くてサッパリですわ。これでは食って行けません。魚価が安くて…。

エビなんか昔は、1万円もしたのに、今は3,500~4,000円までですよ。

編者:どうして、そんなになったんですかね。

あんたらが食ってくれんよっていかんのさ。(笑)

それに輸入物に押されたこともある。景気が悪いのが大きいな。

編者:遊木では、刺網の操業の取決めはありませんか?

10月から4月一杯ぐらいまでときめられているんやろ。ガシをやっても、エビもできるし、サンマもできるんやで、兼ねることは自由やよ。

編者:そうすると遊木では、許可さえ受ければ、何をやっても構わないのですね。

その通り。潜りについても決まりは無い、自由だ。

海士は10人もいるかね、小遣稼ぎぐらいと違うかね、スーツにメガネ、但しボンベは使用禁止。

編者:ずいぶん自由ですね、何でもできるんですか。資料だと組合員は、92名、船は19tが最高ですが。コレで見る限り、皆平等のようですね。

下手な者は篩い落される。

ここくらいなものやろう、漁無くば一銭も無しになるところは。

漁が無い時は、私等みたいに小船を個々に持っていて、小漁をするしかないわな。わしら兄弟で共同でやったんのや。

編者:けれども、不漁の時は共済で救ってくれるでしょう。入ってないのですか?

今迄は入っとったんやけど、今は掛けていない。1度、48年に大漁だったんで掛けた。その翌年少なかったんで貰おうと思ったら、異常だという事で貰えなかったことがある。契約違反や言うたんやが、それで嫌気がさして止めた。

編者:そうすると、遊木では今、漁獲共済に入っている人は誰もいないんですか?

そう。わしらは、土木作業へ行ったりして繋いでいる、1日行けば1万2~3千円になるから。

共済の掛け金は掛け捨てや、高いと思う。

利益になっていたら続けていたと思うよ。

私が、50万なら50万を掛けたとするやろ。その時は漁が良いから賭け損や。たまに貰って黒字になった時は、それを皆に分配しよったよ。うちは、そうなると掛け金は丸々損や。そんなものはやめたろう、となったわけや。それで続かんかった。皆そうやったんや。

そういう事もあったなぁ…。

編者:開吉丸は6人を雇っていますが、船主は覚悟の上だからよいとして、雇われている人は困りますね。それと電気の決まりは?

その時は各人がポンポン船で小漁に行くのよ。うちは6人やが、2人の船もある。

電気は県の規則では10kWになっている。14~15年前は3kWだった。それが三陸は250kWですよ、いかにも光力が少ないから、もう少し引き上げてもらいたい。それだけの設備は備えてあるもん。三陸ほど大きくは要らないが、今の10kWをもう、5kW上げて欲しい、そうすると今よりは獲れるから…。

群が大きければ、それだけ獲れることになる。

これは10kWに規制してあるからよいものの、無制限だったら天井知らずにアップされるだろう。

編者:群さえ来れば、この光力で充分に獲れてきたんだから、少しでも長く獲れるようにした方が良いでしょう。

三陸では選別機を使って小さいのを削り落してしまいよるのさ、それも相当の影響があると思うよ。大きいのを選り分けるのに、小さいのを結果的には殺してしまう。

水産庁が、そのやり方を認めているから問題なんや。10t未満船は選別機を使えない事になっている。ところがそれ以上は許されて、全船が積んでいる。皆、装備している。それが多く獲れれば大きいものを積むから…機械を積む船同士でも、これは何とか廃止しないといかんとは言っている。水産庁の弱った小ものが生き返る考え方は甘いね。茨城へ行くと、サンマの調査船が出ている。その船長とも話をして何とかならんかと問うたら、水産庁が机上で「水と一緒に吸い込んできて、大きいのだけ取って、小さいのを流せば、また生き返るのだからそれでよい」という考え方から許可したものという。それは初めのうちは生きとるんで…そんなもん鱗は落ちて行って、直ぐに弱ってダメになるんやもん。大きな選別機から水と一緒に落ちてくるのは皆、死んだサンマやもん。死んだサンマは腹に空気が入るかして、浮き、それが真っ白に浮いてんやもん。大きな船の船長でも、機械を使うことに頭をかしげている人が何人もおるんや、早く何とかして貰わんと困るよ。

サンマはイワシより弱い、鼻突いたら一発で死ぬよ。沖で棄ててくるのと一緒やわな。

そういうことが積もり積もって、今年のような不漁に繋がってきているんやないかと思う。

サンマなんて、これから幻の魚になってしまうんと違うかね。

北の方で、これやったらニシンの二の舞や、と言っている人も居る。

編者:北の群が南下してここで獲られるわけですね、それから先の行き着くところは何処ですか?

春頃小さいのが昇って来ますよ、南はどこまでかな、春頃でも4月一杯まで獲れるから大きいものもおる、去年のものかな…そやで春にどこぞで仔を生むのかね。釧路水試では、サンマは1年魚だ、というのだがね、年4回くらい産卵すると…向こうでも、こんな(指を指して)細かいもんおるもんな、こっちへ来て、このくらいかなぁ…。

編者:ここで獲ったサンマは、ここの港に揚げるのですか?

ここにも揚げるし、尾鷲へも持って行く。多く獲った船が港を変わらすのさ、無線で連絡が入るから直ぐ判る。

ここの港で処理できるのは40~60tでしょう、それ以上になると、暴落するから、他所へ売りに行く。

売りに行く遠い所は、奈屋浦ぐらいかね、大漁の時は…引本、長島にも行く。尾鷲でも満杯の時があるから…

編者:開吉丸は南下しながらここまでくる時は、最寄りの港にあげているのでしょう。宝生丸は日帰りですね。開吉丸も南下中でも日帰りですか?

日帰りです。

編者:北海道へ入港しているのは県下で何隻ありますか?

県下では3隻、九鬼と海野です。

昔、熊野灘沖へ香川とか徳島の船が来ていたが、今は県外からはない、あれは刺網の時代の時だ。

編者:ここでのサンマの特徴は、脂の無い丸干しだとか、鮨が有名ですが。

大体そうやなぁ、丸干しが多いかな…たくさん揚がった場合は漁連にお世話になる。冷凍するのか、餌にするのか…(殆ど餌です)。

編者:丸干しは手間がかかるでしょう。あの作業は家ですか、作業場ですか。

加工屋が商売でやるのや。組合も自分の所でやってるけど少ないわな。加工場はあるけど。

鮨は手間がかかる。鮨にする場合は冷凍ものを使おうとなるなぁ…鮮魚では数が揃わんのさ。遊木では、丸干しと鮨だけで800万ぐらい挙がっている。

丸干しにする迄に大体、夜半頃までにサンマを獲ると、昼食べた餌が腹中に残っとるのですよ、それやと丸干しにした時の値段が違ってくるのですよ。

つまり、腹中の内容物が出てきて、いい製品ができない。この港ではいい製品にするために、夜半過ぎてから出漁しようと決めている。だから、夜中の12時前には出港しないのだ。それだけ時間をかければ、いい鮮度の魚が獲れるというわけ。その取り決めは遊木だけの申し合わせで、他所ではやっていない。

何処の港へ行っても、仲買人は腹を絞って汁が出るかどうか検査しよるんですよ。

編者:ここのサンマは、いくらぐらいするものですか?去年の例でいいんですが。

良い時で300~400円、たくさん獲れると10~20円/㎏かな。奈屋浦へ行く時はそんな値の時ですよ。

編者:漁場へ行く時間はどのくらいですか?

それは近い所で2時間、遠いと3時間は見ておかないかん。遠くは遠州灘まで行くよ。

許可証が大王崎正東以南だから、余り岸近くへ寄ったらいかんのさ。

普通の魚場は、三木崎沖から新宮、勝浦沖までの間かな…2時間は勝浦までの距離になる。潮岬で3時間か…そんなもんや。

編者:漁場の決め方はどうするのですか?

互いに無線で連絡しあって、今日はここにしようと決める。

電話連絡も取るが、なかなか知らせてくれんのや、秘密にして…どこに群が居るか自分で探すしかない。灯を目印にしている。

編者:すると、それは船頭の永年の感覚に頼るのですね。

思い思いの策で探すしかない。

ソナーなどは群の大きいのは判るが、薄いと判りにくいわな。

漁さえあればソナーくらい設備できるんやけど、それだけ遅れるわな。

編者:最近数年間の実績は平均すると、うんと少ないんですか?

そうです。56~57年が最高、最近では3月に獲れる事が無くなった。

うちは1月19日以降今までサンマを獲っていないもん。乗組員は皆、分散して思い思いの仕事をしているんさ。

冬の間は仕方も無いよ。この頃は秋刀魚は、正月までで終わりさ。シビ縄にも行っとったんやが、そういう仕事を嫌がるので、陸の仕事にかかる人も多いな。

編者:後継ぎについてお二方はどうですか?

わしは、後継者がおらんもんやから、68歳になっても、まだこうやっている。息子は35になっとるんやが、他所へ出て行ってしもうて、誰もおらんわな。漁もないんで船も買うてくれる人もいない。仕方無しにやっとるんさ。身内でも漁であれば良いが、そうでなければやりませんよ。

わしはこういう漁商売は好きでやっとるが、いつまで続けられるかやわ。子供は自分の事だけで精一杯だ。私には96の親父がいるんやが、施設に預けて週に2回洗濯物の交換なんかで通っているんですが、これでどうなっていくんかと考えると、先が思いやられる状態です。年金でもようけ貰っていれば補えるけれども、お先真っ暗です。

編者:年金の話が出ましたが、貴方がたは漁業者年金には入っていませんか?

私は昔、遠洋漁船にのっていたから涙金(年80~90万)くらいは入るが、その他は国民年金だけです。これでは、歳を取っても施設にも入れません。

私が64で、うちは子供が2人船に乗っているんで、あと3人と計、6人でやっています。後継ぎは、まあ、今のところは。学校を出る時に相談して、私は陸へ上がってもよいよ、と言ったんですが、本人が好きだというので手伝ってくれています。子供は3人いて長男は尾鷲で公務員をしているが、次男が継いで、三男は2年前に三菱にいて、戻ってきて、2人が船に乗っています。興味を持ってくれているので、何とかなるでしょう。今は北海道の漁だけが頼りですよ。身体も弱いので気を付けながら…。

編者:少ないなりにも北海道へ出れば望みがあるからよいとして、ここだけでは困るでしょう。

そういう船が多いんですわ。ここでは…残っとる船でシビ縄に2隻ぐらい、その他の船は私とよく似た状態なんです。そのうちで、わしが一番悪いね。漁法を変えようにもいいもんが見当たらんのさ。

夏ボケは今年はようけ獲れた。魚価は上がらなんだが…。

漁連にも大分買うて貰うたんやが、1~2ヶ月続いたかな、近年にない水揚げがあった。せやけど、群が来ても、すぐ揚操網に旋かれてしまうんよ。

わしら、よくケンケン釣りに、遠くは潮岬まで行きよったわさ。シイラがかかるが、安くて買い手が無いんや。ここでもクエを釣る人は居る。縄をたくさんやっているが、餌が高いし商売にはならんと思うが…。

編者:遊漁の客はどうなんです?

来てますが,魚も釣れなくて、一時ほどの賑わいはないな。獲る魚が少なくなったんで困りよるよ。

以前は木付きとか、藻を流して集魚しよって、カツオもマグロもよう見掛けたが、今はサッパリや。熊野沖でもマグロの旋取りが無くなってしもうたもん。

編者:最後に何でも言いたいことがあればどうぞ。

サンマの選別機をなんとか廃止して貰いたい。

t数制限を、しっかり守ってほしいと思う。

不漁の原因を徹底的に調査して貰いたい。

編者寸言

遊木はやはり漁業一筋という印象でした。

一つは北海道から南下するサンマを追って漁獲する。一つは地元に来る魚を何でも時に応じて漁獲する。いずれにしても古くからの漁民の良い伝統を守っている人々でした。

こうした野性豊かな…ということは人間味豊かな生活こそ漁業の魅力であると痛感しました。それに、丸干にするためのサンマの腹に餌が残っていないように夜半過ぎてから出漁するのには感心しました。これこそプロの精神だと。

ただそうした生活ができる条件がどんどん滅亡していく、それを遅れたものとみて近代化を促進しようとする。それが本当の解決策になるでしょうか。

勝手な言い分けかもしれませんが、私はこのような漁業がいつまでも続けていけるような社会であることを願ってやみません。