三重県津市にある「みえぎょれん」のサイトです。「みえぎょれん」や三重の海の紹介、お魚を使った料理レシピも掲載してます。

九鬼漁協 川上正義さん、田崎清助さん

聞き手/編者:元三重大学水産学部教授 内藤一郎氏

三重県 浜の声:大型定置網漁業

昔の人は自分達だけが良くなるのではなく、皆に富を分かち与えようとする気持ちが、今日の九木の定置網漁業を支えてくれたので、その有難味を知って戴く意味で、過去の業績をふりかえってみたいものです。

網は2つあるが、1号が先で、1号の場所は、全ての面で和やかであるし、土質が2号が砂質であるのと違って、粘土質なんで餌になるゴカイの生息に適しているという。また、立地条件としては1号が上げ潮が強く、逆に湾口に近い2号は、下げ潮が強い。2号の急潮だというのは反面、小さい魚の乗りが思わぬ量多いことの利点もあります。2号で毎年、下げ潮で網が揚がらない(操業不能)ということは滅多にないのに、近年は昭和57年以降何回かあった。これは尾鷲湾の鉄砲水の返しが、黒潮の反流と共に来るのではないかと言われています。

また2号では、下げ潮が速くて土壌が岸寄りに異動させられた。50年前は流れで根ごし側ごと早田沖まで押し流されたという。今年は黒潮の異変で、異常がなければと案じています。聞くところによると、相模湾と尾鷲湾には共通した鉄砲水があるようです。

編者:今年は全体として、漁獲の面からみて違ったことがありますか?

2~3年前から、資源が減ったのか、別の条件(潮との関係)なのかは判りませんが、全体としては減った感じです。地方紙も1/3に減ったと報じている。ブリに関しては悲観していない、それは以前に比べて黒潮が拡がりつつあるからだ。水温も22度だったものが18度を割ってくれた。このままでワラサも来てくれるものと思っている。

早田や梶賀あたりに入るのは、瀬付群が寄って来たものと思う(300~400尾)。こちらのものは、それとは違うとみている。早田沖には独特の瀬があって、昔は地方(ヂカタ)の方へ向って張っておったが、それが10年ほど前に沖へ出した。 うちは免許区域内でやっているから変わりはない。

編者:魚群を誘導するために電波や音波を試みたことはありませんか?

そんなことをしなくても、魚群さえ来れば入る。ここらの定置では、やっていない。網の構造を両受けにしたらどうかという説もあるが、片方を箱網にした場合は、学説では10%程度しか入らないと聞く。それよりも箱網の裏側に、違反にならない程度に三枚網を掛けてみて、どの程度の群が来ているのかをテストしてみたい気がする。今までは、そういうことはなかったが、確かめたいと思う。誘導しても魚が逃げて行く話を聞くからだ。両受けにするにしても、それまでにテストしてみたいのだ。

編者:始めにおっしゃった「皆」ということを教えてください。普通は希望者を集めてやって行くのでは?

先達から、共存共栄の精神が培われていたのですよ、有難いことです。定置以外(漁業)にはグループで行動するのはあるが、これほど村中でやるものはない。戦後は進駐軍が来て、結社を解放せよと言うんですよ。吾々はそれで生活しているのだから…と言って強く拒んだ。

明治42年に共同組合ができ、口数を105口とし、本役株を5株、半役株は2口半を割当てた。これが九木に住む成人男子全員に1株の定置網株が与えられ、組合員となります。組合員から生まれる男は、20歳になると半役といって0.5株が貰え、25歳になると本役の1株が貰える。これによって定置の水揚高の配当を受けるわけです。

他村から入居してきても、入籍しない限り組合員にはなれません。

共同組合は大きく分けて、生産森林組合と定置漁業組合の2部がある。両部ともメンバーは同一人である。しかし、共同組合員は全員即、漁協の組合員であるが、逆に漁協の組合員中には共同の組合員でない者がいる、ということです。さらに、共同組合の組合長と森林組合のそれとは同一人であるが、定置組合の組合長が別に居る。生産森林組合は法人格を持つが、定置漁業組合は持っていない。

今はこのままでよいとしても、これからもこの状態が続く保証はない。そうなった時のことを考えると、このままでよいのかという不安がでてくる。

一つの研究課題ではあるが、近々、そういった事態が来ることは予想されることでしょう。今、共同組合の出資者は800余名、1軒でなく1人で勘定する。そのうち山持ちが約1/3強、他所へ出て行っている者です。

編者:網に従事する人は決まっているのですか?

1、2号とも24人ずつになる。その人選は申し込みして貰い、それを抽選により2つに振り分ける。

今年は地元の人で42名、他村から6名の応援を得ている。だが、70歳定年制を執っているから、来年は3名が引退する。その補充をどうするか、新規増員は望めないから、かけ持ちを検討しているところです。そうしないと運営していけない状況に追込まれてしまう。

編者:すると、後継者不足ということですか。

はい、ここばかりではない、近隣みなそうです。兼務は避けられないでしょう。 大敷網ではこれだけの規模ですから、どうしてもこれだけの人手が要るのです。これでも昔に比べると、大謀網の100人以上の人手が今の落網は1/3に減っているし、陸からの沖出しも倍近く伸びています。

この問題は、数年前から事あるごとに、いずれこういうことになりますよ、と組合員に周知させるようにしていますが…

こちらの網(2号)が2年続けて赤字を出している。少々のことは大目に見ようと言ってくれればいいが、逆に、従事者の責めに帰すような意見もないわけではないから、今日の漁(ワラサ千尾入網)があったのは大きな喜びですよ。

編者:それぞれ異なる網へ、人手が足りなくなったら応援するということがあるのですか?

いいえ、他の網へは加勢しません。基本的な賃金は両網で同じですが、漁があった場合はボーナスが違う。固定給は25万5千円で同じ、あとは獲れ高による違いです。それに7千円と社会保障費を含めて5千円が支給される。

編者:株主からみると1号と2号の株主という区分はないのですか?

少し違うのですよ、出発点が違うから、殆どの人が両方の株を持っている。単独は10名程度です。3年に1度、株主に通知して切替えをする。

編者:機械化を導入して労力を軽減するといった努力はないのですか?

それは個人経営なら考えましょうが、こうした経営では一つ一つの判断が難しい。良いとは判っていても、100年に近い歴史のある定置だけに、そう簡単には変れないという考え方がある。ここ九木では、共同組合は神社、仏閣は管理しなければならんし、診療所まで経営(面倒をみる)していますから…。

編者:今朝は、どのくらい水揚げがあったのですか。?

ワラサは5㎏もので1,120本入った、他にサバ、ウマヅラ、ヤガラも獲れた。
今日は一番、組合長の気嫌の良い時に来てくれて助かりました。(笑)

編者:一般の漁民の方で山林持ちの人は?

個人として多いですよ。とにかく山の景気は悪いですね。トラックが付けるところでないと売れない。私が在職中に間伐作業を3千万円かけてやりましたが、抜き木をしても買ってくれる人がいないのですよ。森林公団とタイアップして、造林作業をしている。

編者:九木定置の損益分岐点は、どのあたりですか

これは私見ですが1統1.5億円とみる、過去の例から…。2号というのは普段は少ないが、冬に入ったら一発でで大漁になる網なんです。1号は春漁場(彼岸ブリ)ですから…3万2千尾入った時は、私が漁連の尾鷲勤務の時、ここへ買取りに来たことがありました。

この網(側にある模型を示して)は経費が大部かかる。少しの改良を加える提案をしてみたいと思っています。網屋の意見も取り入れて…船数を減らし、経費の軽減を図ることですよ、これからは…。

編者寸言

共同経営の歴史と現状について、もう少し深くお伺いしたかったのですが、私の勉強不足と時間不足でうまくいかず申し訳ありません。とにかく、かつて漁村(共同体)の生活にとって欠くことが出来ない共同経営も時代が変化し人々の考え方も変化するのに、古い掟がうまく合致しないようになってきたようです。
それを問題が生ずる都度、皆が納得するように計らなくてはならない組合長さんもたいへんだと思いました。とにかく今、それこそ皆が本気になって、新しい共同体としての、あるいは全く別の今の社会のなかでの経営のあり方を考えるときだと痛感しました。漁が良くても悪くてもです。

率直にいって私の中に共同経営の現在的存在意義について全く異なる二つの考え方が混在して決着をみないと言わざるを得ません。かつてよき時代の精神を今日まで継承して来たすばらしい一面、もう一つはかつての事由に物を言えない因習を引きずって来た一面です。私の勉強不足の結果とはいえ、もう古稀を超えているのですが…。